リスクを抑えて株主優待を得る方法とは?
つなぎ売りのやり方と注意点

株式投資をやるうえで大きなメリットである「株主優待」。もしかすると株主優待目当てで、株式投資を始めたいと考えている人もいるかもしれません。しかし株主優待を得るには注意点やリスクも存在します。特に株価が下落するリスクに備えるために、「つなぎ売り」という方法があります。すでに株式投資を始めている人や、これから挑戦してみたいと思っている人はぜひ参考にしてみてください。

・目次


株主優待の基本的な仕組み

株主優待とは、特定の企業の株式を持っている場合に受けられる優待制度です。その企業の商品やサービスを受けられたり、カタログギフトから好きな商品を選べたりなど、さまざまな内容があります。ただし、すべての企業が株式の優待制度を実施しているわけではありません。

株主優待のもらい方

株主優待を受けるには、規定以上の株数を保有している必要があります。優待を受けるための規定数やそのほかの条件は企業によって異なるため、事前に確認が必要です。

一般的に株主優待を受けるには、「権利確定日」に株主として登録されていなければなりません。そのためには、「権利付き最終日」までに株式を購入する必要があります。権利付き最終日は、権利確定日の2営業日前です。

たとえば、以下のようなスケジュールになります。

<31日が権利確定日の場合>

29日

権利付き最終日:優待を受けるための最終購入日

30日

権利落ち日:この日から売却可能

31日

権利確定日:この日に株主として登録されていれば優待を受けられる。

 

29日までに株を保有していれば、31日の権利確定日には株主として登録されるため、30日の「権利落ち日」に株を売却しても問題ありません。

注意が必要なのは、土日祝日を挟んでいる場合です。非営業日は日数にカウントされません。

27日(木)

権利付き最終日

28日(金)

権利落ち日

29日(土)

非営業日

30日(日)

非営業日

31日(月)

権利確定日

 

このように権利確定日が月曜日の場合、2営業日前は『27日(木)』になります。間違えないように注意しましょう。

※権利確定日は銘柄によって異なります。

また株主優待を受ける条件として、半年や1年など一定期間の保有が必要な場合もあります。その場合、権利付き最終日に株を購入しても優待は受けられないので、事前によく確認しましょう。

株主優待が付いている株式は魅力的ですが、リスクもあります。

株価が下落するリスクも

株主優待が付いている銘柄は、権利付き最終日前後の値動きが大きい傾向にあります。権利付き最終日が近づくにつれ需要が高まるため株価は上昇しますが、権利落ち日に売却する人が増えることで、一転して株価は下がりやすいです。

長期で株を保有するつもりなら、あまり問題ではありません。ただし株主優待を得たあとに売却を検討しているなら、なるべく値下がりのリスクは避けたいところです。

この株価変動リスクを抑えるために「つなぎ売り」という方法があるので、詳しくご紹介していきます。


株価変動リスクを抑えるには「つなぎ売り」を

株主優待のメリットを得ながら価格下落のリスクを抑えたいなら、つなぎ売りを検討してみるとよいかもしれません。

つなぎ売りとは?基本的な仕組み

つなぎ売りとは、同一の銘柄を現物買いすると同時に、信用取引で新規売建注文する方法です。こうすると、株主優待の権利は保有しつつ、株価の下落リスクにも備えられます。

信用取引とは

自分が保有している現金や株式を担保に、証券会社の資金や株式を借りて取引を行うことです。信用取引の主なメリットは、レバレッジが効くことと株価下落時にも利益を得られることがあげられます。

レバレッジとは、保有している資金以上の取引ができることです。約3倍の取引が可能で、たとえば50万円の資金で150万円までの取引を行えます。ただし、相応にリスクが高くなるので注意しましょう。

また信用売りの場合、株価下落時に利益を得ることが可能です。現物の場合、利益を得るには「安く買って高く売る」が原則ですが、信用売りの場合はそれが逆になります。高いときに売っておき安くなったら買い戻すことで、価格下落時に利益が発生する仕組みです。

つなぎ売りで損失と利益を相殺

現物買いの株価が下がって損失が発生しても、同一銘柄を信用売りしておけば、その利益分と相殺できます。それを利用して、株主優待の権利を獲得しつつ株価下落リスクに備えるのがつなぎ売り、というわけです。

<つなぎ売りの仕組み>


つなぎ売りの具体的なやり方

つなぎ売りを行うにはどうしたらいいのか、具体的な方法をお伝えしていきます。タイミングを間違えないよう注意しましょう。

権利付き最終日までに現物買い

まずは権利付き最終日までに株式の現物買いをします。すでに現物株式を保有している場合は不要です。ちなみに、旧NISAやNISA成長投資枠で保有している株式は対象外なので注意しましょう。特定口座、もしくは一般口座で取引する必要があります。

信用取引の新規売建注文をする

現物買いした銘柄と同じ株数分を、信用取引の新規売建で注文します。現物買い注文後にそのまま取引するのもおすすめです。その場合、同じ株価で約定させるためには、寄付前(市場取引が始まる9時より前)に、両方の取引を「成行」で行うとよいでしょう。

信用売りしてから現物買いをしても問題ありません。銘柄の種類や数を間違えないように注意してください。

現渡による決済

信用取引で売った株式は、保有している株式で現渡による決済をします。証券会社から借りていた株式を、現物保有していた株式で返すということです。

繰り返しになりますが、NISA口座で保有している株式は現渡による決済には使えないので注意しましょう。

いつ売る?いつ買う?シミュレーションで確認

具体的にはどのようなスケジュールになるのか、シミュレーションしてみました。今回の例は、「一般信用取引」の「短期信用(15営業日)」を利用した場合です。

※「一般信用取引」の詳細は後述します。

短期信用の返済期限は「7営業日」「14営業日」「15営業日」などと証券会社によって異なりますが、いずれもあまり早くに保有すると株主優待の権利獲得前に決済する必要がでてきます。かといって権利付き最終日に購入しようとすると、売り切れている場合もあるので、注意が必要です。

<3月31日が権利確定日の場合のスケジュール>

3/7(金)

1日目

つなぎ売り注文開始

3/10~26

2日目~13日目

※非営業日を除く

3/27(木)

14日目

権利付き最終日

3/28(金)

15日目

権利落ち日

3/29(土)

16日目

非営業日

3/30(日)

17日目

非営業日

3/31(月)

18日目

権利確定日

※スケジュールは変更することもあります。上記はあくまでも参考としてご覧ください。

たとえば3月末が権利確定日だった場合、権利付き最終日は3月27日(木)です。返済期限が15営業日の短期信用売りの場合、3月7日より購入できます。返済期限の営業日は権利落ち日も含めて計算しましょう。

現渡による返済は、基本的に権利落ち日と考えておけば問題ありません。ただし遅い時間の取引だと翌日約定になることが多いため、権利付き最終日の17時頃より取引できることもあります。

当日約定ではなく翌日約定になる細かなスケジュールは証券会社によって異なるので、事前によく確認しておいてください。


デメリットや注意点は?

つなぎ売りは優待銘柄の価格下落リストに備えられる手法ですが、ちょっとしたデメリットがあったり間違えがちなミスでうまくいかなかったりすることも。以下でご紹介する点に注意して挑戦してみてください。

新規の場合は信用取引口座開設が必要

信用取引を行うには、現物取引用とは別に新規で信用取引口座を開設しなければなりません。新たに審査が必要となり、多少時間がかかるので、早めに口座を開設しましょう。

※すでに現物取引を行っていたとしても、信用取引口座での審査に通るとは限りません。

また、NISA口座の株式は現渡には利用できないため、現物株式は一般口座や特定口座で購入しましょう。特定口座とは、発生した利益の源泉徴収を自動で行ってくれる口座です。

配当金はもらえない

つなぎ売りをしている場合、配当金はもらえないと考えていたほうがよいでしょう。

正確には権利付き最終日に現物株式を保有しているため、配当金は受け取れます。ただし信用売りをしている場合は、配当金と同額の『配当落調整金』を支払わなければなりません。配当落調整金とは、信用売りしている人から信用買いしている人へと渡されるお金です。

配当金には20.315%の税金がかかるため、受け取れるのは配当金の79.685%分です。一方配当落調整金は配当金の100%分を支払わなければならないため、差額が損失となります。

<配当金と配当落調整金の例>

1株あたり10円の配当金がある場合

①     100株あたりの配当金:10円×100株×79.685%=796.85円

②     100株あたりの配当落調整金:10円×100株×100%=1,000円

①と②の差額=203.15円が損失となる

ただし特定口座を利用して株式数比例配分方式に設定しておけば、配当金と配当落調整金の差額がほぼ同額還付されます。つまり配当金と配当落調整金が相殺されるイメージです。

このように、つなぎ売りは株主優待の権利は保持できますが、配当金までは期待できないと覚えておいてください。

コストに注意

そのほかつなぎ売りで注意が必要なのは、コストです。基本的に以下のコストが発生します。

・売買手数料

現物買いと信用売り、それぞれの売買手数料が必要です。金額は証券会社や売買条件によって異なります。証券会社によっては売買手数料が発生しない場合もあるので、証券会社を選ぶ際の参考にしてください。

・賃株料

信用売りは、証券会社から株を借りている状態です。そのため、賃貸料として費用が発生します。借りている期間が長くなればなるほど賃株料はかかるので、注意しましょう。

先ほどつなぎ売りのスケジュール例をご紹介しましたが、あまりに早く信用売りの取引をすると、株を借りている期間が長くなります。希望する銘柄を手に入れやすい一方で、コストが高くつくことを覚えておいてください。

また、先ほどご紹介したように配当金の差額がコストとして発生する可能性もあります。つなぎ売りで株価下落の損失をカバーできても、株主優待で得られるメリットよりもコストが高くなってしまっては元も子もありません。

発生するコストが、優待で得られるメリットを超えないよう、事前にしっかりチェックしましょう。

逆日歩がかかることも

逆日歩とは、「制度信用取引」を利用した場合に発生するコストです。信用取引には以下の2種類があります。

【制度信用取引】

証券会社の手持ちの株がなくなった場合、機関投資家から株を調達して行う信用取引のこと。機関投資家に支払う手数料のことを逆日歩といいます。

【一般信用取引】

証券会社が保有している株式でのみ行う信用取引のこと。機関投資家から調達することがないため、逆日歩は発生しません。その代わり、賃株料は制度信用取引より高めです。

制度信用取引で信用売りをした場合、逆日歩が発生することがあります。しかも逆日歩は需要と供給のバランスで決定されるため、事前にいくら発生するのか予想できないことが多いです。

特に初心者の場合、思いがけず高額な逆日歩を支払うことがないよう、つなぎ売りをするなら一般信用取引で行うとよいでしょう。

注文ミスに注意

つなぎ売りをする際に、注文ミスをしてしまう人も少なくありません。たとえば以下のような失敗があります。

・注文忘れ、同じポジションの購入

現物買い、もしくは信用売りのどちらかの注文をし忘れてしまうと、当然つなぎ売りはできません。また、どちらも同じポジション(現物買い&信用買い)で購入してしまった場合も同様です。

・銘柄や株数を間違える

似た名前の銘柄を間違えて購入してしまったり、株数を間違えたりなどのミスです。銘柄を間違えるとどうしようもありませんが、株数を間違えただけであれば、全額は無理でも多少の損失はカバーできるかもしれません。

・一般口座と特定口座を間違える

特定口座で取引しているつもりが、一般口座で取引していたという間違いです。一般的には税金の計算をしなくてすむ特定口座がおすすめですが、一般口座でつなぎ売りの取引ができないわけではありません。ただし、現物買いと信用売りで違う口座を使って取引していると現渡ができない場合があるので注意しましょう。

・現渡を忘れる

最後の現渡を忘れ、信用取引の期限を過ぎると強制決済されます。強制決済される際に発生する手数料等が高額になることもあるので、注意が必要です。

・一般信用売りのつもりが制度信用売りになっていた

制度信用売りの場合、逆日歩が発生する恐れがあります。間違いに気が付いたときは、なるべく早めに現渡して、再度やり直すことをおすすめします。

・スケジュールの確認ミス

権利確定日を勘違いしていたり、権利落ち前に売ってしまったりなどのミスです。銘柄によって権利確定日は異なるので、特に多くの銘柄を購入していると勘違いすることがあります。

また、権利落ち前に現渡してしまうと株主優待を受けられなくなります。翌日約定になると思って権利付き最終日の夕方に取引を行ったものの、当日約定になってしまった、という失敗談があります。十分注意してください。


つなぎ売りができる銘柄の選び方

つなぎ売りをするには、一般信用取引「短期」で売建できる銘柄を選ぶのがおすすめです。どの銘柄でも信用売りの取引ができるわけではないので、注意しましょう。

すべての銘柄でつなぎ売りできるわけではない

まずは希望の優待銘柄について、一般信用売りができるかどうかを確認しなければなりません。証券会社によって取り扱う銘柄は異なるので、複数の証券会社で口座を作っておくのもおすすめです。

また人気の銘柄は、権利付き最終日が近くなると売り切れることも少なくありません。発生するコストを気にするあまり購入が遅くなり、売り切れることがないよう、取引のタイミングに注意してください。

つなぎ売り銘柄の探し方

つなぎ売りができる銘柄を探すには、一般信用取引「短期(もしくは無期限)」が可能な銘柄を検索するとよいでしょう。

基本的には、信用取引(一般信用、制度信用ともに)で売建ができる銘柄であればつなぎ売りできます。ただし特に慣れないうちは、逆日歩が発生しない一般信用取引「短期(無期限)」で取引できる銘柄だと安心です。

インターネットで取引が可能な証券会社の場合、取引画面からつなぎ売り可能な銘柄を探せます。本記事では、初心者にも人気のSBI証券と楽天証券の検索方法をご紹介します。

SBI証券の場合

①     ログイン後、以下の順番で検索

②     国内株式

③     信用取引タブ

④     一般信用売り銘柄一覧で、以下の条件で絞込

・信用区分「短期銘柄」

・売建受注枠「余裕あり」及び「残りわずか」

・優待権利確定月「つなぎ売りを希望する月」

上記で出てきたリストから優待銘柄を探すには、銘柄名をクリックして個別銘柄画面に遷移します。そこにある「株主優待」タブをクリックして詳細を確認してください。

楽天証券の場合

①     ログイン後、以下の順番で検索

②     国内株式

③     信用取引情報

④     一般信用売建

⑤     弁済期限(14日もしくは無期限)で検索

リストの中から優待銘柄を探すには、気になる銘柄の「優待情報」を確認してみてください。

このほかの証券会社でも、大体同じような方法で検索できます。

おすすめ銘柄

証券会社によってつなぎ売りができる銘柄は異なるため、各証券会社の取引画面やブログなどでおすすめ銘柄を調べるとよいでしょう。

銘柄によって権利確定月は異なるため、月ごとにおすすめの銘柄を紹介しているものもあります。そちらもぜひ参考にしてみてください。

本記事では、権利確定が行われる銘柄が多いと言われる3月のおすすめ銘柄をいくつかご紹介します。証券会社やタイミングによってはつなぎ売りができない場合もあるので、取引の前に各種条件も含め、必ずご自身でご確認ください。

<3月の株主優待銘柄>

企業名

優待内容

株式会社コロワイド

コロワイドグループで利用可能な優待ポイント

株式会社ラウンドワン

割引券、レッスン優待券など

株式会社カワチ薬品

お買物優待券、おこめ券など

株式会社幸楽苑

優待券、優待品など

株式会社JSP

社会貢献寄付金付オリジナルQUOカード

株式会社ライドオンエクスプレスホールディングス

株主優待券、もしくはお米など

株式会社ヤマダホールディングス

お買物優待券

株式会社オリエンタルランド

1デーパスポート(東京ディズニーランドまたは東京ディズニーシー)

日本管財ホールディングス株式会社

ギフトカタログ

株式会社メニコン

メニコン優待券、自社商品など

ユニプレス株式会社

PayPayポイント、図書カード、QUOカード、食品、雑貨、寄付など商品カタログより選択

日本航空株式会社

国内線50%割引など

ANAホールディングス株式会社

国内線50%割引など

株式会社ヤマウラ

地場商品群の中から商品選択

朝日放送グループホールディングス株式会社

番組特製QUOカード

企業名

優待内容

株式会社コロワイド

コロワイドグループで利用可能な優待ポイント

株式会社ラウンドワン

割引券、レッスン優待券など

株式会社カワチ薬品

お買物優待券、おこめ券など

株式会社幸楽苑

優待券、優待品など

株式会社JSP

社会貢献寄付金付オリジナルQUOカード

株式会社ライドオンエクスプレスホールディングス

株主優待券、もしくはお米など

株式会社ヤマダホールディングス

お買物優待券

株式会社オリエンタルランド

1デーパスポート(東京ディズニーランドまたは東京ディズニーシー)

日本管財ホールディングス株式会社

ギフトカタログ

株式会社メニコン

メニコン優待券、自社商品など

ユニプレス株式会社

PayPayポイント、図書カード、QUOカード、食品、雑貨、寄付など商品カタログより選択

日本航空株式会社

国内線50%割引など

ANAホールディングス株式会社

国内線50%割引など

株式会社ヤマウラ

地場商品群の中から商品選択

朝日放送グループホールディングス株式会社

番組特製QUOカード

※株主優待の内容は変更になることがあります。

株主優待を受けるために必要な株数や期間は、あらかじめよく確認しましょう。保有株数によって受けられる特典は異なります。

このほか、3月には多くの銘柄で株主優待の権利確定があります。つなぎ売りを希望するなら、現物買いするよりも前に、信用売りの状況をよく確認してくださいね。


まとめ

株主優待が付いている株式はとても魅力的ですが、売買が盛んに行われるため株価下落リスクがあります。そのリスクを回避するためには、「つなぎ売り」がおすすめです。

つなぎ売りとは、株式の現物買いと同時に信用取引で新規売建注文をすることで、損失と利益を相殺する方法です。つなぎ売りを行うことで、株価下落リスクを回避しつつ株主優待を受けられます。

ただしつなぎ売りにはコストが発生します。優待特典で得られる利益よりもコストの方が高くつかないよう、注意してください。また、注文ミスによりつなぎ売りに失敗するケースもよくあるので、事前にしっかり確認しましょう。

限られた資金で株主優待を得るためにも、つなぎ売りに挑戦してみてはいかがでしょうか。